本谷有希子「藁の夫」

「藁の夫」は、2015年度下半期の芥川賞受賞作「異類婚姻譚」の最後に収められた短編小説。作者は、劇作家でもある本谷有希子氏で、彼女らしい毒を含んだ物語です。恐怖を感じながらも、「こわいもの見たさ」の気持ちと、リズミカルな文章に、活字を追う目を急かされます。

主人公の夫はなんと「藁」でできています。家畜の飼料となる、あの藁。そんな奇妙な設定で始まる本作。

ある日、トモ子は藁の夫とランニングに出かける。気持ちの良い時間を過ごした二人だが、トモ子が不注意で夫の新品のBMWを傷つけたことから喧嘩、より不気味な展開へ発展していく…。

「この人だ!」と考えて結婚したトモ子だが、喧嘩により夫から心が離れていくー。そんな皮肉なことを、日々私たちも繰り返しているのだろうと思うと、自嘲してしまいました。とにかく、私としては、妙にリアリティを感じてしまった作品です。

たがいが、離れた心に気づかないフリをして、ふたたび夫婦の平和な日常へ戻ろうとする。果たしてそれは本当に可能なのか?ー 本谷氏の人間観察の鋭い目と、ニヒルな感性が、問いかけます。

読んでいて、楽しい・幸せという気持ちになる類の作品ではなく、人の心の奥の痛いところを突きながら、現実世界の難しさや恐ろしさを感じさせる作品。

「人生、前向きがいちばん!」と考えながらも、本作をとおして、どうしても「心の闇」のようなものにも惹かれてしまう自分を再発見しました。

そしてなぜか、そんな自分も悪くない、と私に思わせた「藁の夫」というこの短編。

ぜひご一読をあれ♪